事例・インタビュー

今までの磁気計測とは「全然違う」高精度で実用的なSenrigaN

金沢工業大学 環境土木工学科 田中 泰司 教授

略歴

東京大学工学部社会基盤システム計画学科卒。東京大学大学院工学系研究科社会基盤学専攻修士課程修了。2004年長岡技術科学大学助手、2008年同助教。2006年博士(工学)取得。2015年東京大学生産技術研究所特任准教授。2018年金沢工業大学准教授。2021年現職。

専門分野

専門:コンクリート工学、維持管理工学。論文:「Remaining fatigue life assessment of damaged RC decks」など。著書:「新設コンクリート革命(分担)」。受賞:吉田研究奨励賞(土木学会)、プレストレスト工学会賞(論文部門)、道路と交通論文賞(高速道路調査会)、土木学会田中賞(論文部門)、日本コンクリート工学会論文賞 ほか

橋の強度推定のために一番大事なのは鋼材の破断状況把握

田中教授の研究室では、土木構造物(橋やトンネルなど)の強さと耐久性を確かめるために、ICT(Information & Computing Technology)を使った技術を開発されています。災害に強くて長持ちする土木構造物の提供を目指し、非破壊計測と構造解析を組み合わせて橋梁の寿命を計算するなど、劣化した構造物の健全性評価を専門的に研究されています。
「コンクリート橋の強度推定では様々な情報を総合的に判断しますが、一番大事なのが鋼材の破断状況です。これまでは数か所穴をあけて確認し、鋼材全体の劣化状況を推測するしかありませんでした。鋼材破断の状況を基に、この橋は安全に通行できるのか、それともすぐに通行止めにしなければいけないのかといった、人の命のかかった強度的判断を行うので、本当は鋼材全体を確認したかったのです。そのために非破壊で鋼材の劣化状況を検査できる方法を探していました。」

SenrigaNの破断判定の精度は一定のラインをクリアしていると思います。

› SenrigaNをお知りになったきっかけはなんでしたか?

長岡技術科学大学の下村教授からのご紹介でした。新しい非破壊検査装置があるらしいと教えてもらったのがきっかけです。非破壊検査装置は以前からありました。しかし、(妙高大橋で試したところ)10か所中1か所あたるくらいの精度だったので、使えないという印象で、今回もどうせダメだろうと半信半疑で試してみました。(現場は弁天大橋でした。北陸地方整備局で行われている橋梁塩害調査会がスタートしたタイミングだったので、そこで試してみることにしました。)

› 検証の結果はどうでしたか?

予想と反し、破断と判定した10か所中9か所正解、残りの1か所も異物が確認されたのです。
SenrigaNは以前からある非破壊検査装置に比べ、情報量が多いことがポイントです。540個のセンサーがxyzの3方向のデータを面で取得するため、周囲の状況と比較することで、異物や図面と違う位置の鋼材などいろいろな状況がみえやすくなり、異常のありなしが格段に判断しやすくなりました。「今までとは全然違う」という印象を受けました。破断判定に一番大事なのは精度です。その点において、SenrigaNは一定のラインはクリアしていると思います。

操作性もとても良くなっていました。以前のものは計測に必要な磁石が重すぎて若い学生でも途中で肩があがらなくなるぐらい大変でした。しかしSenrigaNはコンパクトにできていて、学生でも6つの桁を1日半で測定でき、労力的にも使えるところまできてるなという印象でした。
得られたデータの読み方は慣れ必要がという印象です。私も最近マスターしてきました。原理を説明いただければ理解できるので、最初にトレーニングを受けることが大切です。今後は初見の人にわかりやすいような解析方法が必要と考え、私も一緒に研究していきたいと思っています。

橋梁の維持管理における安全、安心の信頼性が変わってきます。

› 他の手段と比較していかがでしたか?

本来内部鋼材の劣化状況の検査というのは、できれば全面測りたいのです。50センチ離れたところは全く違う状況になっていることがあるからです。しかし、これまでは「はつり」「内視鏡」「X線」などによる部分的な検査から全体を推し量るしかありませんでした。破壊する検査はその後の橋の強度が心配だし、X線もセッティングや安全確保のためとても時間がかかるもので、1日3面測るのに数千万円必要など、それぞれに課題がありました。

また従来の漏洩磁束法の検査機は実験室ではよいのですが、実際の橋だと判断が難しいのが現状です。こうした手法に比べるとSenrigaNはとても実用的です。非破壊検査が実用レベルに達すれば、全てを正確に把握できるようになります。破断状況が正確にわかれば橋の強度を算定する方法はすでに確立されているのです。これにより橋梁の維持管理における安全、安心に対する信頼性が変わってきます。

› 今後の展望を教えてください

特に、外部変状がなくても内部劣化が進むおそれのあるポステン桁では、人間がある年齢に達したら人間ドックを受けるように、ある年数経過したら一度はSenrigaNでチェックしておくということができれば理想です。また、今後もっと検査スピードがあがれば外部変状がある部分に対し補修設計で必ず導入できるとよいと思います。補修設計の精度が向上することで実際の施工とのギャップが埋まり、より適切な補修工事につながります。

› ありがとうございました。