事例・インタビュー

「難しいこと,ほかの誰も作ろうと思っていないこと」 に取り組んだ成果SenrigaN

東海旅客鉄道(株)

日本の大動脈と社会基盤の発展に貢献するという経営理念を掲げ、鉄道および関連事業を展開。
安全綱領に「安全は輸送業務の最大の使命である」と定める。

■設立 1987年
■事業内容 鉄道事業、関連事業

安全を最優先する企業理念からSenrigaNを利用

東海旅客鉄道(株)は、安全で安定な輸送サービスの提供を最優先に、新幹線・在来線合わせて約2000kmの線路・土木構造物の点検、補修・補強を行う。すべての土木構造物に対して、最低でも2 年に 1 度のペースで検査を実施し、検査から補修設計の一部まで社員を教育して自社で実践している。新技術も常に探索し、実際に鉄道への適用可能性を検討したり、自社で技術開発をしたりとインフラ維持管理の最先端を走る。今回はそんな東海旅客鉄道(株)におけるインフラメンテナンスのキーマンである総合技術本部技術開発部 土木構造物技術チーム 吉田 幸司氏にお話しを伺った。

人間ドックで精密検査をするように橋梁を検査したい

› SenrigaNをお知りになったきっかけはなんですか?

橋の点検は、外観は目視で検査できますが、鋼材の破断など内部の状況を非破壊で検査する手法の中で、いい方法はないかと探していました。そんな時、東北大学の安藤先生から「磁気を使って調べられないか?」とご助言いただき、考えるきっかけになりました。そこにちょうどコニカミノルタ様から磁気による非破壊検査を装置化したと連絡がきたので、PC 橋梁の検査に使えないか一度試してみることにしました。

› なぜ内部鋼材破断の心配をされていたのですか?

日本海側の道路橋は、塩害による鋼材の腐食が問題になっていました。当社路線とは使用している環境は異なるものの、同じような腐食が鉄道橋で起こることを防ぐために、内部の状態を確認したいと思っていました。日本のPC橋の多くは高度経済成長期に架けられ始めましたが、実は材料をはじめ建設方法として現在の仕様に整ったのは2000 年頃なのです。PC の技術は元々海外が先行していて、技術を輸入して建設していましたが、海外でケーブル破断により落橋に至るケースが発生し、日本でも塩害の影響が大きい地域で不具合が確認され、問題が顕在化しました。PC 橋のポステン桁はシース内に主ケーブルがあり、隙間にグラウトを充填し付着や錆を防ぎます。そのグラウト材料が硬化する際に、表面に水が浮き出るブリーディングという現象が生じると、ケーブル定着部付近に水がたまります。定着部は桁の表面に近いため、外部からの影響も受けやすく、ケーブルの腐食につながる場合があるのです。90 年代後半から2000 年頃にかけて徐々に材料も改善されましたが、このような当初想定していなかった不具合への対応として、グラウトの充填状況やケーブルの状態を確認して、大事にいたる前に対処したいと考えていました。人間ドックで精密検査をするように、新技術を用いて内部を検査したかったのです。

「難しいこと,ほかの誰も作ろうと思っていないこと」に取り組んだSenrigaN

› これまでにSenrigaNを用いてどのような実証実験をされましたか?

2016 年に話を持ち掛けられた時にはまだ SenrigaN という名前もなく、技術も未完成で、課題もたくさんありました。最初は試験体を用いて測れるかどうかを検証しました。その後新幹線のPC橋を使って実際に試してみたところ、測りたい対象のケーブル以外の鉄筋などが測定に影響することがわかりました。そこでどういう条件だと計測ができて、どういう条件だと難しいかなども報告してもらいました。万能じゃないことは問題ではなく、むしろ何ができないかを明確にしてもらえることで安心感・信頼感が増しました。検査中に列車が走行するとノイズがのるなど想定外の課題も発見され、クリアするための設計変更で、計測の速度と精度、安定性の向上につながったようです。データの読み方も最初のころは専門知識がないと取り扱いにくいのかな?とみていましたが、インターフェースなどもわかりやすく改良されていき、我々でも勉強したら使えるなと思えるレベルに来ています。
このように一つずつ課題をクリアするように改良してくれることが信頼につながっています。実際の鉄道橋で破断は見つかっていませんが、健全であることを確認できるので安心感が得られました。「難しいこと,ほかの誰も作ろうと思っていないこと」 に取り組んだ成果が正にSenrigaN だと思います。

検査中に走行する新幹線

新幹線橋検査風景

非破壊検査にやっと有力なものが登場してきた

› これまでの点検はどのようにされていましたか?

PC橋の点検は基本的には目視で行い、遊離石灰の析出などの外観変化や列車が走った時の桁のたわみなどを見ます。詳細な調査には、非破壊検査で X 線、反射波などいろいろ提案された手法を取り入れていますが、計測するためには条件がつくことや専門性が求められるなどの理由から、日常的に現場で用いるには至っていない状況です。現場で使えるものという視点では決定打となる方法がなく、あとは穴をあけてみるしかないのが実情でした。そこにやっと有力なものが登場してきたという印象です。

› SenrigaNに期待すること、今後の展望を教えてください。

精度の向上とユーザーインターフェースの改良を続けていただきたいです。利用できる範囲が限定的でもいいから破断の有無が明確にわかることを期待しています。まずは、斫った結果破断がない検出の空振りがあっても、破断の見逃しがないことが大切で、使いやすさにつながると思います。また、トレーニングをして、こうなったら使ってもよいというような機器取り扱いに関する一定の基準があるといいと思います。判定は根拠が明確に理解できるとよいですね。
展望という面では新幹線だけでもPC桁は400連ほどありますが、沿線どこも例外なく一巡させ、その後詳細点検に使えたらと思っています。まずは、代表的なものを調べていきながら運用ルール等を整えていくことで実装レベルになっていくと考えています。

› ありがとうございました。